JBICは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託事業 「タンパク質機能解析プロジェクト」及び「タンパク質機能解析・活用プロジェクト」(平成12年度~17年度)において、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、民間企業等との共同研究により、ヒト完全長cDNAを基盤とした世界最大規模のヒトタンパク質発現リソースを構築いたしました。
【概要】
ヒトエントリークローンを用いることで、遺伝子産物であるタンパク質を簡単かつハイスループットに生産することが可能です。JBICでは令和4年10月よりヒト
エントリークローンの提供を開始いたしました。各方面でご活用いただくことによって、タンパク質機能解析や、創薬研究等が促進されることを期待しております。
*「ヒト
エントリークローン」とは、完全長ヒトcDNAからPCRにより取得したヒトのORF領域のみを
エントリーベクターにクローニングしたクローンです。なお、
はLife Technologies社の登録商標です。
NEDO委託事業「iPS細胞等幹細胞産業応用促進基盤技術開発」(平成21年度~24年度)において、JBICは京都大学・山中伸弥教授や産総研・五島直樹氏(現武蔵野大学・JBIC)のグループと連携し、本ヒトタンパク質発現リソースを用いて、山中4因子と呼ばれるOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycを相補する新規遺伝子の探索を進め、安全かつ効率的な新規iPS細胞誘導遺伝子Glis1を発見いたしました。
本リソースのスクリーニングにより選出した1,437個の転写因子から、Klf4の代替因子として18因子を同定しました。その18因子の1つであるGlis1を、発ガンの危険性があるc-Mycを除いた 3因子(Oct3/4, Sox2, Klf4)と一緒に、マウスやヒトの線維芽細胞に導入すると、従来の方法と比較して効率よくiPS細胞を作製できることが明らかとなりました。更に、Glis1が初期化を促進する機構を詳細に検討したところ、Glis1は初期化が不完全な細胞の増殖を抑制し、完全に初期化した細胞のみ増殖させることがわかりました(Nature 2011; 474:225–229)。
この新規iPS細胞誘導遺伝子Glis1は、京都大学・山中教授から「魔法の遺伝子」と呼ばれ、加齢黄斑変性の治療に使われる(N Engl J Med 2017; 376:1038-1046)等、iPS細胞の臨床応用に貢献しております。
NEDO委託事業 「タンパク質機能解析プロジェクト」及び「タンパク質機能解析・活用プロジェクト」(平成12年度~17年度)において、JBICは産総研・五島直樹氏(現武蔵野大学・JBIC)のグループと連携し、コムギ胚芽無細胞系によるハイスループットのタンパク質合成システムを開発しました(Net Methods 2008; 5:1011–1017)。本システムを用いることで、本ヒトタンパク質発現リソースから2万種類のタンパク質を1週間という短期間で作製することが可能となりました。
また、ヒト遺伝子・タンパク質データベースHGPDも整備し、本ヒトタンパク質発現リソースに含まれるヒト*エントリークローンの詳細情報、及びそのクローンからのタンパク質発現データを検索することができます。
ヒトタンパク質発現リソースは、iPS細胞誘導因子探索の他に、分化誘導因子等の探索、蛍光タンパク質を用いたインビトロ・メモリーダイ法による化合物スクリーニング、プロテイン・アクティブアレイによる血清中の自己抗体解析、標準タンパク質を用いた定量プロテオミクス解析等多種多様な国家プロジェクト及び共同研究にて、タンパク質機能解析の基礎研究から創薬探索、再生医療の応用研究まで幅広く利用されています。
*はLife Technologies社の登録商標です。
JBICでは、成果普及(公益活動)の一環として、NEDO「タンパク質機能解析・活用プロジェクト」(平成12年度~平成17年度)成果の社会実装のため、ヒト*エントリークローンの提供**を行っています。
*はLife Technologies社の登録商標です。
**令和3年12月までは独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)より分譲を行っていました。NITEでの分譲業務終了を受けて令和4年10月よりJBICにて提供業務を引き継ぎました。
参考資料: ポストゲノム研究を支える世界最大規模のヒトタンパク質発現用クローン、研究者等へ提供を開始
★共同研究での提供をご希望の場合はお問い合わせフォームにその旨記載ください。共同研究契約書をお送りいたします。
提供する全てのクローンは、Life Technologies社のシステムに対応するエントリーベクターにクローニングされています。
システムは、 エントリーベクターのORF配列を効率的に目的ベクターへ転換するための、部位特異的組換えを使用しています。
システムについてはLife Technologies社の資料をご参照ください。
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